2017年09月11日

社会福祉士の支援のツールとしての口腔ケアー

福岡県重傷神経難病患者入院施設確保事業 平成29年度医療従事者研修
「神経難病患者の口腔ケア」

講演1 神経難病患者の口腔ケアについて
 九州大学口腔総合診療部 准教授 稲井裕子先生

講演2 筋萎縮性側索硬化症患者の口腔ケアにおける多職種連携
    ー認識のズレに配慮した支援ー 
                 隅田好美

講演の内容の一部をご紹介



表紙.JPG


本日の話.JPG



2.社会福祉士の支援のツールとして口腔ケアを利用


 社会福祉士として支援を行う場合に口腔ケアをツールの1つとして使用していました。社会福祉は対象者を「生活者としての個人」として捉え、問題解決のために「人と環境との相互作用」に働きかけます。口腔ケアは社会福祉の立場からの援助を通して、「生活者」としての問題を解決し、「よりよい人生」を支援するツールの1つとなりました。 また、口腔ケアが心理的支援につながると感じることがありました。

 今までのわたしの社会福祉士としての研究から得た結果の1つは、「家族役割や社会役割を感じることで、病いとともに前向きに生きる可能性が高くなる」ということです。意思伝達装置を使用して家族と会話をすることや、メールやインターネットを通して社会とのつながっていると感じることが、何もできなくなったと感じている人への支援となることがありました。

 話すことも食べることもしないと、口唇や頬粘膜が硬くなってしまいます。口唇や舌でセンサーにタッチしたり、頬を動かすことでスイッチ操作をしている人にとって、表情筋や口唇をマッサージして柔らかい状態に保つことは、自分の意思を伝えるための、とても大切な支援の1つだと考えます。

 私なりに経験したことから口腔ケアの広い意義を分類しました。福岡県重傷神経難病患者入院施設確保事業 平成29年度医療従事者研修で使用したスライドと、学会での抄録を一部修正して説明します。 

社会福祉士の視点.JPG






「社会福祉の視点からみた口腔ケアの意義」 隅田好美,日本歯科衛生学会雑誌2(1),2007,124-125,日本歯科衛生学会第2回学術大会,福岡を抜粋または一部修正して説明(スライドは発表に使用したものと異なります)

社会福祉の視点からみた口腔ケアの意義

要約

 重度疾患、重度障害者などへの社会福祉士、歯科衛生士としての支援を通じ、口腔ケアの意義を再検討した。社会福祉の立場から援助を行うときの口腔ケアの意義は、@「生への思い」への支援、A自己決定への支援、B自立支援、C前向きに生きるための支援、D家族へのグリーフケア、E残された時間が短い患者と家族の最後の会話への支援、F家族の介護負担や介護疲れ軽減への支援があった。社会福祉は対象者を「生活者としての個人」として捉え、問題解決のために「人と環境との相互作用」に働きかける。口腔ケアは社会福祉の立場からの援助を通して、「生活者」としての問題を解決し、「よりよい人生」を支援するツールの1つとなった。

【目的】

 口腔ケアの意義として歯科疾患の予防だけではなく、誤嚥性肺炎などの感染症の予防も広く知られる。また、要介護者への口腔ケアがQOLの向上につながるということも、よく経験する。著者は重度疾患、重度障害者に社会福祉士として援助することで、さらに広い口腔ケアの意義を感じた。

 社会福祉の対象は、「生活者としての個人」である。また、問題を客観的事実と、対象者の主観的側面から捉える。ソーシャルワーク(相談援助)を行うときには、本人だけに変化を求めるのではなく、人と環境との相互作用を重視する。

 本発表は、このような視点から口腔ケアの意義について再検討し、紹介することを目的とする。

【対象および方法】

 重度障害、重度疾患をもつ方への「その人らしく生きるための支援」について、社会福祉の立場から研究してきた。その中で、口腔ケアを社会福祉の支援のツールとして使用することがあった。それらを分析することで、社会福祉の視点から見た口腔ケアの意義について検討した。

 分析は、1998年から2007年に社会福祉の研究のために行った聞き取り調査、フィールドワークにおける患者、家族の言葉から、口腔ケアが社会福祉としての支援に役立ったと考えたものを分類した。研究対象者は表1の施設等で行った癌終末期患者、筋萎縮性側索硬化症患者(以下「ALS」)、重度要介護高齢者、重度障害(児)者である。

  緩和ケア病棟2カ所(1998〜2004年)

  神経内科病棟1カ所(2003〜2004年)

  訪問看護ステーション2カ所(1998〜2004年)

  筋萎縮性側索硬化症患者会2カ所(2000〜2007年)

 本発表は、聞き取り調査の逐語録や歯科衛生士としての業務記録を詳細に分析したのではなく、何度も経験した口腔ケアの意義をまとめたものである。

【結果および考察】



自己決定への支援.jpg


1.障害者の自立支援

 米国の障害者自立生活運動により、介護に依存しても、自己決定、自己選択を行いながら自分の人生を主体的に生きることが、障害者にとっての自立であるという新しい価値観がもたらされた。人工呼吸器を装着したALS患者で、「療養生活を自己管理しているので、自分らしく生きている」という人がいた。パソコンで苦痛を訴え、介護方法を具体的に指示していた。

 数ミリ動く頬粘膜、口唇、舌でセンサーを操作してパソコンを入力する患者が多い。表情筋や口唇をマッサージして柔らかくすると、センサーの操作がしやすくなる。このような患者にとっての意義は、<自己決定の支援><自立支援>である。


2.前向きに生きるための支援

 病いが重く、仕事の継続が困難となり社会から取り残され、孤独を感じている場合があった。話すこともほとんど自分で身体を動かすこともできないALS患者が、パソコンで手紙を書いた。自分の意志を相手に伝える手段があることを知り、自分に残された可能性を感じ、前向きに生き始めた。

 また、パソコンでホームページを作成したり、雑誌へ投稿する原稿を作成するなど、情報を発信し、社会的なつながりを感じている人がいた。それが社会的役割となり、生きがいを感じる1つの要因となった。前述したとおり、口腔ケアによりパソコンが操作しやすくなる。このような場合の口腔ケアは、<前向きに生きるための支援>となる。


グリーフケア.JPG


3.「食べること」と「生と死」

 癌終末期の患者は、「おいしくない」「食べられなくなる」ことで、自分の残された時間の短さを感じている場合が多かった。

 ALS患者にとって「呼吸困難=死」というイメージが強かった。また、胃ろう造設を遅らせ、できるだけ長く口から食べたいと考えていた。患者は嚥下困難と呼吸困難を「球麻痺」という1つの言葉で捉えているため、摂食嚥下の機能が維持されることで、呼吸困難に対する恐怖が緩和されている場合もあった。これらの場合の口腔ケアの意義は、<「生への思い」への支援>となる。


4.家族へのグリーフケア

 緩和ケア病棟で、数週間も残された時間がない方に寄り添い、話しかけること以外「何もしてあげることがない」と感じている家族に、口腔ケアやスポンジブラシによる保湿を勧めた。最後まで「これをしてあげた」と感じることが、<家族のグリーフケア>につながる可能性が高くなる。また、口腔ケアを行い保湿されると、「今日は話していることがよくわかる」と、家族がいうことがあった。このような場合、残された時間が短い患者と家族の<最後の会話への支援>となる。


介護負担の軽減.JPG



5.介護負担の軽減(表情)

 自分の意志を伝えることができない人の、介護サービスへの評価を、表情を観察することで行うという研究がある。しかし、胃ろうを造設し、何も話すことなく寝ているだけの人は、表情がなくなる。そのような患者の表情筋や口唇をマッサージすることで、表情がもどることが多い。

正式な表情の評価測定でなくても、家族介護者にとって、患者の笑顔は「ありがとう」の代わりとなる。介護によって笑顔がでると、無表情の人を介護するよりも、やりがいを感じる可能性が増える。このような場合の口腔ケアの意義は<介護負担、介護疲れの軽減への支援>となる。


【結論】

 社会福祉士として援助を行うときの口腔ケアの意義は、@「生への思い」への支援、A自己決定への支援、B自立支援、C前向きに生きるための支援、D家族へのグリーフケア、E残された時間が短い患者と家族の最後の会話への支援、F家族の介護負担や介護疲れ軽減への支援があった。

 口腔ケアは口腔内の問題を解決するだけではなく、社会福祉士としての援助を通して、「生活者」としての問題を解決し、「よりよい人生」を支援するツールの1つとなった。



福岡難病.JPG


posted by yoshimi at 09:28 | TrackBack(0) | 研究
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/180742616
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック