2017年09月12日

ALS患者の口腔ケアにおける多職種連携ー認識のズレに配慮した支援ー

福岡県重傷神経難病患者入院施設確保事業 平成29年度医療従事者研修
「神経難病患者の口腔ケア」

講演1 神経難病患者の口腔ケアについて
 九州大学口腔総合診療部 准教授 稲井裕子先生

講演2 筋萎縮性側索硬化症患者の口腔ケアにおける多職種連携
    ー認識のズレに配慮した支援ー 
                 隅田好美

講演の内容の一部をご紹介

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1.歯科専門職の関わり方


今までALS患者さんへの「口腔ケア」の関わり方は3つに分類できました。



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博士論文では ALS患者・家族・専門職(患者と家族が心の支えとなったと感じていた専門職)への聞き取り調査から、「認識のズレ」を分類しました。



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アーサークライマンは「治療者の説明モデル」「患者の説明モデル」のその違いは、「関心の違い」から生じると説明しています。その対処として「臨床的ケアのための治療戦略」を説明しています。


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事例から説明しました(学会の抄録を抜粋)

事例1 身体介護(口腔ケア)の受け入れが困難なケース

 「患者・専門職の<認識のずれ>―筋萎縮生息策硬化症患者の身体介護(口腔ケア)の受け入れに対する検討―」 隅田好美,日本社会福祉学会第56回全国大会報告要旨集2008,194,日本社会福祉学会第56回大会,岡山より一部抜粋

 2000年にALSと診断を受けた。筆者は2002年より社会福祉士として関わり始めた。その時は、室内の短い距離の歩行が可能であったが、上肢を挙げることができず、指の細かい動きもできなかった。本人は口腔ケアの大切さを認識しており、妻が部分介助を行っていた。介護保険や医療保険を使用して歯科衛生士としての関わりも可能だと伝えていたが、本人はまだ必要ないと考えていた。2003年より本人の希望で歯科衛生士として口腔ケアを開始した。ホームへルーパーによる入浴介助を開始した時期であった。口腔ケアに対する主訴は、@セルフケアが困難になってきたため、歯周疾患の予防を希望、A現在球麻痺の進行はないが、摂食嚥下に関する機能が安定しているか点検してほしい、B口腔ケアがきっちりと出来ているか相談していきたい、ということであった。

 口腔ケアに対して、<支援する時期と支援を受け入れる時期の違い>があった。上肢の障害が進行していることから、歯科衛生士として関わる必要があると判断した。しかし、患者は「(口腔ケアが)大事やなと思いながら、なかなか踏み切れなかった」「(身体介護を受け入れることは)乗り越えなければいけない大きな壁」という。また、<立場による違い>により、口腔ケアを行う人に関する<認識のズレ>が生じた。介護者がすべての身体介護や外出支援を行っていたが、偏頭痛が起きて通院していた。介護者の負担軽減を考え、専門職としての口腔ケアや日常の口腔ケアとして歯科衛生士、訪問看護師、ホームへルーパーが行うことが可能だという情報を提供した。しかし、本人は妻以外の口腔ケアは「今は必要ない」と考え、いろいろな人が口腔ケアをすることを断った。
 排泄介助や入浴介助などの身体介護の受け入れについて「抵抗あるんやけど、いつかはたぶんお世話にならなあかんと思って」「羞恥心っていうのがあるからね」という。口腔ケアについても「やっぱり恥ずかしいね」と感じていた。しかし、身体介護を受け入れることは、「1回、乗り越えなあかんところやからね」と考えていた。
 患者自身も歯科衛生士による口腔ケアとセルフケアについて、「患者は突然受け入れる立場になる」「歯科衛生士はきっちりと勉強している」と、<立場の違い><知識の違い>を認識していた。自分で磨いていた方法と歯科衛生士によるケアの方法が異なったことについて、「素直に従おうと思ってやってきたんで」という。また、歯科衛生士に対しては、「本来のケアの方法はこうですよって、違いを説明した方が、患者の立場からはありがたい。押しつけやなしに」「(患者が)願っていることをいかに読み取るかという技術を持ってもらえたら、本当にありがたいと思いますね」という。

 以上のように他者による口腔ケアを実施すること、専門的な口腔ケアの介入についても、<立場による違い><知識による違い><支援する時期と支援を受け入れる時期の違い>による<認識のズレ>が生じていた。


事例2 病状告知直後より定期的に歯科専門職が関わったケース

「筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者への精神的支援―歯科衛生士・社会福祉士の資格を活かして―」 平林友香,隅田好美,梶井友佳,伊藤加代子,井上誠,日本歯科衛生学学会雑誌, 6(1), 2011,101,日本歯科衛生学会第6回学術大会,新潟(一部抜粋 発表は大学院生)

 Aさん(60歳 男性)は、2007年12月にALSと診断を受けた。ALSは徐々に身体的機能が低下し、最終的には自分の意思で身体を動かすことが出来なくなる過酷な病である。患者への支援は、社会福祉士として関わっている口腔生命福祉学講座教員と、摂食・嚥下リハビリテーション担当の歯科医師から指導を受けて行った。

 告知直後の病気に対する不安が大きい時期から、演者は社会福祉士としての面談に継続的に同席した。告知から人工呼吸器装着後の在宅療養生活を始めるまでの期間に行った社会福祉士としての支援は、精神的支援、人工呼吸器装着の自己決定への支援、療養生活の構築、コミュニケーション支援、楽しみをサポートする支援であった。
 球麻痺が進行し、2008年9月に胃ろう造設した。このころより歯科衛生士として、摂食・嚥下リハビリテーション担当の歯科医師の病室往診に同行し、摂食・嚥下リハビリテーションを学んだり、口腔ケア介入を開始した。病室では口腔ケアを行いながら、告知後から今までの経過について、大変だった気持ちも含めた話を聞くことができた。病状の進行に伴い、家族への口腔ケアの指導を行い、自宅での食事姿勢を確認し、疲労が少なく、安全に経口摂取できるよう指導した。11月にBiPAPを導入したが、急激な呼吸機能低下により、気管切開を行い人工呼吸器を装着した。2009年2月より在宅療養生活を送り、月1回の歯科訪問診療を行い、口腔内診査、口腔ケア、歯石除去後、評価も兼ねて経口摂取を試みている。
 症状の進行は速く、出来なくなることが増えることでの精神的苦痛は大きい。そのため、現在できる楽しみを見つけることで、「生きている証」につなげたいと考えていた。楽しみの1つとして散歩や外出を勧めたが、Aさんは慎重な性格であり、車いすへの移乗でさえも消極的であった。最初はテレビを見るだけであったが、徐々に孫の誕生やメールのやりとりを行うといった身近なものが楽しみになっていった。主観的ニーズを重視する社会福祉の支援では、その人の性格・考え方により、専門職として考える支援通りにはいかないことを改めて感じさせられた事例であった。

 歯科衛生士としての医学的な支援は、症状の進行に沿って専門職の考える方向性を患者に提供しながら進めていくことができたが、社会福祉士としての主観的なニーズに寄り添った支援は、患者や家族の意思と専門職の考える支援の方向性に差異がみられやすく、患者や家族の気持ちに寄り添った支援が必要だと実感した。また、歯科衛生士と社会福祉士として介入することで、医学的な視点から症状の進行を把握することができるとともに、患者や家族の気持ちの変化も理解しやすくなり、患者や家族の気持ちに寄り添った支援を行うことが可能となったと考える。

そのほかの参考文献

「ALS患者への精神的支援に配慮した歯科衛生士の関わり方―歯科衛生士・社会福祉士の資格を活かした支援を通して―」隅田好美,平林友香,梶井友佳,伊藤加代子,日本歯科衛生学会雑誌7(2),2012,91-101

まとめ その1
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 病状告知後から定期的に歯科専門職が関わることで、病状の進行に合わせた口腔ケアや食事に関するアドバイスができます。また、人工呼吸器装着後も家族や介護職による日常の口腔ケアと、歯科専門職による専門的口腔ケアを継続することで、歯肉の状態も良く頬粘膜が柔らかい状態が保たれていました。
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まとめ その2

 専門職としての支援では「認識のズレ」を経験します。主観的ニーズに寄り添う支援では、特に認識のズレが大くなります。認識のズレに寄り添い情報提供をしながら見守ることが大切な時期があります。専門職としての考えを伝え「認識のズレの摺り合わせ」を行うことも大切です。また、専門職が少し背中を押すことで前に進むこともあります。
 「患者・家族・専門職の認識のズレ」のスライドのどの分類のズレかを検討し、専門職としての支援方法を考えることで、患者の主観的ニーズに寄り添った支援となる可能性が高くなります。
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posted by yoshimi at 09:08 | TrackBack(0) | 研究
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